022566 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

見習い魔術師

見習い魔術師

     第四章  

第四章

「森」の木々の間を、小さな影が木々の間を縫うように、ふわり、ふわりと飛びまわっている。
さらりと流れた、足元まである明朝こがね黄金(こがね)の髪は、薄い緑が息づき、まだ生えたばかりのハーブが飾られている。
柔らかで軽い、膝丈のドレスの淡い緑は、生まれたばかりの木の葉の色を映し出したようだ。
大きな瞳は木の葉の色で、その顔立ちを一層可愛らしいものにしている。
とても可愛らしい、申し分のない少女。
歳は16になり、好奇心旺盛なことはこの年頃に共通している。
しかし、少女は人間ではない。人間に限りなく近しい、妖精。
その証拠に、彼女の背には陽炎のように消えてしまいそうなほどの、美しい薄い羽が生えている。
少女の名はリース。ハーブの精だ。
「森」に生まれ、ずっとその中で生活してきた。
その為、フィリル達とも非常に仲が良い。
今、彼女は何かを探しているかのように、あちらこちらを飛び回っている。
妖精に限らず、すべての魔のもとに生を受けた生き物は、生まれつき専属とする能力を持っており、生を受けた瞬間からその能力なら操る事が可能である。
リースの場合は植物に属しているため、その姿形を変えたり、その成長を操る能力を得意とする。
身の丈15、6の少女には、大きな木々の枝ひとつ、煩わしいものなのだろう。
彼女の進む道には、木々の枝で出来た小さな洞窟が出来ている。
もっとも、彼女が通り過ぎた後には、その姿をあるべき姿に戻してはいるが。
さて、この少女。
先程からしかめっ面で文句を言いつづけている。
「もうっ!!なんでいないのよぉ~」
すでに30分近く森の中を飛びつづけているため、彼女の苛立ちはすでに頂点に達していた。
「フィーリルー!!どこ~!?」
丁度その時。
「あ~!!フィリルはっけ~ん!!」
幸いにも、彼女はフィリルの居る中庭にたどり着いていたのだ。
加えて言うと、この森の正しい地形が分かっているのは、森の主と城の住人だけ。つまり、他の森に住む者たちは、森の地形を全く理解できない。体で覚えなければならないほどの広さなのである。
その為、リースもあてずっぽうに飛び回っていたというわけ。
「フィーリールー!!」
リースは、フルスピードでフィリルのもとへ、その長い髪を風になびかせながら飛んでいった。
   *     *     *     *     *     *     
ガチャ  ギィィィィィ・・・・・・
少しだけ開いた扉の隙間から、ひょっこりと頭がひとつ。
・・・ヨシュアである。
「しーしょーぉー?起―きーまーしーたーかー??」
もちろん、返事なんてあるわけがない。
「・・・そんな訳ないかぁ・・・。当り前だよねぇ・・・」
ルーファスの枕もとに立ちながら、ヨシュアはつぶやいた。
「ほーらー、し-しょーおー!!ルーファスししょーってばー!!」
ルーファスの体を激しく揺すりながら、その耳元で大声を出す。
「んん~・・・」
やっと起きるかのと思い、ヨシュアはその体から手を離した。
しかし・・・。
「やぁぁ~・・・。もうちょっと~・・・」
寝ぼけ眼で言うルーファス。
「・・・・・・。はぁ・・・」
今はもう慣れたものの、フィリルにこの役を任され、ルーファスを初めて起こしに行った時、この寝言はヨシュアの胸の内に巨大な不安の渦を作ったものだ。
初めてのとき、ヨシュアの胸は高鳴っていた。自分の師に誇りを持ち、どんな人にでも「自分の師は、仕事においても私生活においても素晴らしい方です」と言い切る自信があったのだから。しかし、その「私生活において」、ヨシュアの自信はことごとく砕け散ってしまった。そして、それに代わるように、もくもくと不安の渦が湧きあがってきたのは、言うまでもない。更に、どうしたってルーファスが起きてくれる気配はない。その結果、ヨシュアはフィリルを頼るしかなかったのである。そして、その不安を大分和らげてくれたのが、フィリルの魔法薬だったのである。その時点から、ヨシュアはルーファスよりもフィリルの方を頼りにし始めたのは、当然といえよう。
「さ・て・と」
ヨシュアは、フィリルから渡された小瓶を取り出した。中で、キラリ、と黄色い水が光を反射して、日の光のように輝いた。
「飲ませれば、いいんだよね~♪」
楽しそうに言いながら、キュポンッという音と共に瓶の蓋を外す。
ふわり、と甘い香りが小瓶から溢れ出た。
「動かないでくださいよ~・・・」
半開きになった口に、瓶の中身を注ぎ込む。
すべて注ぎ込んだとき、ルーファスの姿がジ・・・と歪んだ。
みるみる縮んでいき、最後には布団の中央だけがぽっこりとふくらんだ。
「さてさて♪」
ヨシュアは嬉々とした様子で布団をめくった。
「・・・ぷっ・・・」
そこには、随分と可愛らしいものが姿を現していた。
「これは・・・、はじめてかも・・・っ」
さすがに声を出すのは失礼と思っているのか、声を押さえて大笑いをしながら、ヨシュアはソレを見つめた。













© Rakuten Group, Inc.