第四章第四章「森」の木々の間を、小さな影が木々の間を縫うように、ふわり、ふわりと飛びまわっている。 さらりと流れた、足元まである明朝こがね黄金(こがね)の髪は、薄い緑が息づき、まだ生えたばかりのハーブが飾られている。 柔らかで軽い、膝丈のドレスの淡い緑は、生まれたばかりの木の葉の色を映し出したようだ。 大きな瞳は木の葉の色で、その顔立ちを一層可愛らしいものにしている。 とても可愛らしい、申し分のない少女。 歳は16になり、好奇心旺盛なことはこの年頃に共通している。 しかし、少女は人間ではない。人間に限りなく近しい、妖精。 その証拠に、彼女の背には陽炎のように消えてしまいそうなほどの、美しい薄い羽が生えている。 少女の名はリース。ハーブの精だ。 「森」に生まれ、ずっとその中で生活してきた。 その為、フィリル達とも非常に仲が良い。 今、彼女は何かを探しているかのように、あちらこちらを飛び回っている。 妖精に限らず、すべての魔のもとに生を受けた生き物は、生まれつき専属とする能力を持っており、生を受けた瞬間からその能力なら操る事が可能である。 リースの場合は植物に属しているため、その姿形を変えたり、その成長を操る能力を得意とする。 身の丈15、6の少女には、大きな木々の枝ひとつ、煩わしいものなのだろう。 彼女の進む道には、木々の枝で出来た小さな洞窟が出来ている。 もっとも、彼女が通り過ぎた後には、その姿をあるべき姿に戻してはいるが。 さて、この少女。 先程からしかめっ面で文句を言いつづけている。 「もうっ!!なんでいないのよぉ~」 すでに30分近く森の中を飛びつづけているため、彼女の苛立ちはすでに頂点に達していた。 「フィーリルー!!どこ~!?」 丁度その時。 「あ~!!フィリルはっけ~ん!!」 幸いにも、彼女はフィリルの居る中庭にたどり着いていたのだ。 加えて言うと、この森の正しい地形が分かっているのは、森の主と城の住人だけ。つまり、他の森に住む者たちは、森の地形を全く理解できない。体で覚えなければならないほどの広さなのである。 その為、リースもあてずっぽうに飛び回っていたというわけ。 「フィーリールー!!」 リースは、フルスピードでフィリルのもとへ、その長い髪を風になびかせながら飛んでいった。 * * * * * * ガチャ ギィィィィィ・・・・・・ 少しだけ開いた扉の隙間から、ひょっこりと頭がひとつ。 ・・・ヨシュアである。 「しーしょーぉー?起―きーまーしーたーかー??」 もちろん、返事なんてあるわけがない。 「・・・そんな訳ないかぁ・・・。当り前だよねぇ・・・」 ルーファスの枕もとに立ちながら、ヨシュアはつぶやいた。 「ほーらー、し-しょーおー!!ルーファスししょーってばー!!」 ルーファスの体を激しく揺すりながら、その耳元で大声を出す。 「んん~・・・」 やっと起きるかのと思い、ヨシュアはその体から手を離した。 しかし・・・。 「やぁぁ~・・・。もうちょっと~・・・」 寝ぼけ眼で言うルーファス。 「・・・・・・。はぁ・・・」 今はもう慣れたものの、フィリルにこの役を任され、ルーファスを初めて起こしに行った時、この寝言はヨシュアの胸の内に巨大な不安の渦を作ったものだ。 初めてのとき、ヨシュアの胸は高鳴っていた。自分の師に誇りを持ち、どんな人にでも「自分の師は、仕事においても私生活においても素晴らしい方です」と言い切る自信があったのだから。しかし、その「私生活において」、ヨシュアの自信はことごとく砕け散ってしまった。そして、それに代わるように、もくもくと不安の渦が湧きあがってきたのは、言うまでもない。更に、どうしたってルーファスが起きてくれる気配はない。その結果、ヨシュアはフィリルを頼るしかなかったのである。そして、その不安を大分和らげてくれたのが、フィリルの魔法薬だったのである。その時点から、ヨシュアはルーファスよりもフィリルの方を頼りにし始めたのは、当然といえよう。 「さ・て・と」 ヨシュアは、フィリルから渡された小瓶を取り出した。中で、キラリ、と黄色い水が光を反射して、日の光のように輝いた。 「飲ませれば、いいんだよね~♪」 楽しそうに言いながら、キュポンッという音と共に瓶の蓋を外す。 ふわり、と甘い香りが小瓶から溢れ出た。 「動かないでくださいよ~・・・」 半開きになった口に、瓶の中身を注ぎ込む。 すべて注ぎ込んだとき、ルーファスの姿がジ・・・と歪んだ。 みるみる縮んでいき、最後には布団の中央だけがぽっこりとふくらんだ。 「さてさて♪」 ヨシュアは嬉々とした様子で布団をめくった。 「・・・ぷっ・・・」 そこには、随分と可愛らしいものが姿を現していた。 「これは・・・、はじめてかも・・・っ」 さすがに声を出すのは失礼と思っているのか、声を押さえて大笑いをしながら、ヨシュアはソレを見つめた。 ジャンル別一覧
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